野遊び~SDGs 住み続けられるまちづくりを(掲載2021年3月30日)

2021年03月30日(火)〜2021年03月31日(水)

野遊び~SDGs 住み続けられるまちづくりを(掲載2021年3月30日)

地方創生の一歩は、足元を見つめることから。
後藤健市さんに聞く「野遊び」による場所の生かし方。

人口減少に高齢化、それによる地域の過疎化…。いま、地方では様々な課題を抱えています。

そして、これは日本に限ったことではありません。国連サミットで採択されたSDGsの目標のひとつにも「住み続けられるまちづくりを」があり、誰も取り残さない持続可能なまちづくりを目指しています。

    

 

では、具体的にどうすればいいのでしょう?そのヒントを知るべく、「野遊び」をキーワードに地方創生に取り組む後藤健市さんに、あーすぷらざの建物を歩きながらお話を伺いました。聞き手は、あーすぷらざ館長の編田照茂です。


(プロフィール)
後藤健市(ごとう・けんいち)
株式会社スノーピーク取締役・地方創生室長。一般社団法人 野遊びリーグ理事長。株式会社デスティネーション十勝 代表取締役社長。1959年、北海道帯広市生まれ。地域内外でのまちづくりに参画し、場所の価値を生かした企画と実践、講演活動や人材育成などに取り組む。

 

奪い合うのではなく、開いてつながる。

編田:
後藤さんは「野遊び」をテーマに地方創生に取り組んでいますが、そもそも「野遊び」とは何でしょう?

後藤さん:
「遊び」っていうのは単なるゲームやギャンブルではなくて、人間として根源的な創造の行為なんです。つまり、自分たちが楽しくて豊かな時間を過ごすためにやること。それに僕は「おいしい」も加えて「野遊びいい仲リゾート」を全国で展開しています。

編田:
「田舎」ではなくて「いい仲」なんですね。

後藤さん:
そう。自然と人、人と人が“いい仲”になることを目指しています。リゾートをつくるのに地球環境を何でも切り倒すのではなくて、豊かな自然をどう楽しむか。よく田舎に行くと「何もない」と言う人がいますが、僕から見ると「余計なものが何もない」。ここも、屋上から山が見えていいですね。


編田(左)と あーすぷらざの屋上にて。

編田:
天気がいいと富士山も見えるんですよ。

後藤さん:
こんなに広いのに、活用されていないのがもったいないですね。

編田:
スノーピークが白馬村で運営している「LAND STATION」は、使われていない駐車場に建てたんですよね。

後藤さん:
はい、キャンプ場の駐車場が第1から第4まであって、かつては全部埋まるほど賑わっていたようですが、いまは空いていて。そこで第4駐車場に、隈研吾さんの設計で複合施設を建てました。白馬には山の上に滞在する「FIELD SUITE」もあり、そこを拠点においしい・楽しいを仕掛けています。
通常、旅館やホテルは自分のところだけで閉じていますが、開いてつながることが大切です。人が流れるとお金も流れるし、地域のためにもなります。

編田:
開いて、つながる。大切なキーワードですね。あーすぷらざも、もっと地域に開いていきたいと思っています。よく地域の人に「県の建物だから敷居が高い」と言われることもあるのですが、もっと利用してもらって喜んでもらえる場所にしたいんです。
私たちが大切にしていることのひとつ「多文化共生」は、単に外国籍の人だけでなく、たとえば障害者の社会参加を妨げる偏見をとりはらうなど、さまざまなバックグラウンドを持っている人たちとの共生を実現したいですね。

 

わざわざ来てもらえるように「量」から「質」へ。

 


2階のイートインスペースでは、スリランカの子どもたちが描いた絵が飾られている。

編田:
2階にあったレストランはコロナ禍の影響で閉店(2020年8月31日に事業者が撤退)してしまったので、現在は、一時的にイートインスペースにしています。今年、新たなレストランが始まる予定で、多様なバックグラウンドをもった人が受け入れられる場所にしていきたいと思っています。どんなレストランにするかコンセプトを考えているところです。「野遊び」も食を大事にしていますよね。

後藤さん:
「野遊びガストロノミー」と言っていて、その地域ならではの食にこだわっています。

編田:
そこでローカルの価値が出てくるんですね。

後藤さん:
そう、ローカルの食を、ローカルの景色とともに味わう仕掛けをつくっています。ここも窓から並木道が見えますが、あれは桜ですか?

編田:
はい、春は桜が咲いてきれいですよ。

後藤さん:
真下には池もありますね。水辺でコーヒーを飲めたら気持ちよさそうです。

編田:
いいですね。去年はそのあたりで野外上映会を開いて、キッチンカーも出したら、けっこう好評だったんですよ。

後藤さん:
こんな風に場所の価値を、地元の人たちが再認識することも大事なんですよ。自分たちの地域の価値をわかっていない人が多いので、せっかくいい場所なのに磨ききれていないと、もったいないことになってしまう。

編田:
確かに、自分が住んでいるところの価値は、自分では気づきにくいですよね。

後藤さん:
たとえ不便なところにあっても、そこにしかない景色や味を楽しむために、わざわざ訪れる人はいます。わざわざ行きたいと思ってもらえるように、質の高い、こだわったものをつくると、単価も上がります。
飛行機もエコノミー、ビジネス、ファーストクラスがあって、数万円から100万円まで差がありますよね。同じ空港から同じ時間をかけて同じ空港に移動するのに、わざわざファーストに乗りたい人がいるわけです。

編田:
わざわざ来てもらうには、まず知ってもらうことが必要ですが、発信についてはどう考えていますか?

後藤さん:
まずはキーパーソンに来てもらって、気に入ってもらえたら彼らが自慢したり紹介したりしてくれます。だから、その最初の信頼する人とのつながりが大事ですね。そこから自ずと広がっていきます。
これまでは「量」の広がりを重視してきましたが、これからは「質」を高くしていかないといけない。数字を否定するわけではないけど、「量」だけだと奪い合いになりますからね。たくさん人が来たとしても、オーバーツーリズムの問題があるように、住民にとってマイナスになってはいけないですし。

編田:
そのためには地域にとけこむことが大切ですね。

後藤さん:
そうです。地元の人たちとともに、地域のこだわりのものと、地域を生かした景観を組み合わせれば、世界に誇る地方の魅力が生まれます。それを日本から世界に発信していきたいと思っているので、あーすぷらざのみなさんにも協力いただけると嬉しいです。

編田:
誰も取り残さない持続可能な場をつくる「同士」ですね。今日は、地球規模の課題について身近な内容でお話をしていただき、ありがとうございました。(終)


対談が終わった後も話は止まらず、近くのカフェへ。

主催神奈川県立地球市民かながわプラザ(指定管理者:公益社団法人青年海外協力協会)
協力後藤健市(株式会社スノーピーク取締役・地方創生室長)
お問い合わせ神奈川県立地球市民かながわプラザ(指定管理者:公益社団法人青年海外協力協会)
TEL045-896-2121
E-mailgakushu■earthplaza.jp(■を@に変更ください)

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